「お気に入りの腕時計なのに、ベルトのサイズが合わなくて使いづらい……」 「近所の時計屋さんに見せたら、『このベルトは調整できないタイプだから』と断られてしまった……」
そんな経験はありませんか? 時計のベルトには様々な種類がありますが、金属パーツが複雑に噛み合って伸び縮みする「蛇腹(じゃばら)式ベルト(伸縮バンド)」は、その特有の構造から、サイズ調整(コマ詰め・コマ足し)が非常に難しい部類に入ります。そのため、一般的な時計店や量販店では、リスクを避けるために「調整不可」として断られてしまうケースが少なくありません。
今回ご紹介するのは、まさにそんな「どこに行っても断られてしまい、半ば諦めかけていた」というお客様からお預かりした、大切な腕時計の修理・メンテナンスの物語です。
1. Webサイトでの出会いと、お客様のお悩み
お客様は、動かなくなってしまった時計の電池交換と、長すぎて手首にフィットしない蛇腹ベルトの調整をご希望でした。

ご近所の時計店をいくつも回られたものの、現物を見せるとどこでも「縮めることはできない」と断られ続け、最後にインターネットで検索し、高松市のエファーナにたどり着いてくださったそうです。 お持ち込みいただいた時計をじっくりと拝見したところ、確かに一筋縄ではいかない複雑な構造でしたが、「これなら問題なく進められる」と判断。さっそく作業を開始します。

2. 基本であり奥が深い「電池交換」と内部清掃
まずは時計の命を吹き返す「電池交換」の工程から丁寧に進めていきます。
裏蓋を慎重に開け、役目を終えた古いボタン電池を取り外します。このとき、内部の繊細なムーブメント(機械部分)に目に見えないほどの小さなチリや汚れが入り込まないよう、専用の綿棒を使って周囲を優しく拭き掃除します。新しい電池をセットし、まずは時計本体が正常に動き出したことを確認。
3. 防水性の要、パッキンのチェックと溝の清掃
時計本体の動作が確認できたら、次に時計の天敵である「湿気や水」から機械を守るためのパッキン(ゴムリング)のメンテナンスを行います。



ゴム製のパッキンは経年劣化で硬化したりひび割れたりするため、状態を厳しく見極めます。そして、パッキンが長年密着していた「跡(ケース側の溝)」のお手入れも非常に重要。
圧迫されていたパッキンの跡には、長年蓄積された汗や皮脂、微細なホコリが固着しています。ここを木綿の布を使って滑らかになるまで徹底的に拭き取ります。土台を綺麗に整えたら、パッキン自体の処理を行います。
パッキンに時計専用の防水シリコングリースを薄く均一にコーティング(グリース処理)することで、ゴムの弾力性を蘇らせ、裏蓋を閉じた際の気密性を劇的に高めることができます。
4. 他店で断られた難関、蛇腹ベルトのサイズ調整(コマ外し)
時計本体の裏蓋を隙間なくしっかりと閉じ、いよいよ本題であるベルトの調整工程へと移ります。

蛇腹ベルトは、一般的な金属ベルトのように「ピンを抜けば簡単にコマが外れる」という構造をしていません。内部で複雑に入り組んだ金属パーツがバネのように噛み合っているため、独特の分解手順が必要となります。



ベルトの裏側を観察すると、二重構造になった斜めのパーツが重なり合っています。これをピンセットや専用工具を使い、まるで精密なパズルを解き明かすように、傷をつけないよう慎重にスライドさせて引き剥がしていきます。力任せに行うと金属が歪んで使い物にならなくなるため、非常に高度な指先の感覚が求められます。
今回は、事前にお客様の手首サイズを計測した結果に基づき、正確に「2コマ分」のパーツを取り外しました。取り外しを終えたら、今度はベルトの両端を再び綺麗に結合させなければなりません。
バラバラになった内部のバネパーツと外装パーツを、再び元の美しい噛み合わせへと戻し、しっかりと接合します。これで2コマ分、お客様の手首にぴったり合うサイズへとスマートに短縮されました。さらに、このベルトを時計本体へと戻していきます。

本体とベルトを繋ぐパーツ(ラグ部分)を確実に連結させ、使用中に外れて落下することがないよう、強度と連動性を入念にテストします。
5. パルスチェッカーによる最終動作確認と完成
すべての組み立てが完了したら、最後に完璧な状態であることを証明するためのチェックを行います。

文字盤の針がしっかりと動いていることを目視で確認するだけでなく、私たちは「パルスチェッカー」と呼ばれるクォーツ時計専用の回路検知器を使用します。内部の電子回路から規則正しいテンポで電磁パルスが発生しているかを測定し、機械的・科学的にも「完璧に機能している」という確証を得て、すべての工程が完了となります。
「直らない」と諦める前に、エファーナへご相談ください
手首に心地よくフィットし、再び力強く時を刻み始めた腕時計をご覧になり、お客様は大変喜んでくださいました。「もう使えないと思っていたお気に入りの時計が、また毎日着けられるようになって本当に嬉しい」というお言葉をいただき、職人冥利に尽きる瞬間でした。
時計の修理やメンテナンスには、マニュアル通りにはいかない難案件がたくさんあります。構造が特殊だから、古いものだから、海外で買ったものだから……そんな理由で他店で断られてしまった修理案件でも、ぜひ一度エファーナにお気軽にご相談ください。
私たちは、お客様の「この時計をまた使いたい」という大切な想いに寄り添い、持てる技術を尽くして、一本一本真心込めて丁寧に向き合います。諦めて引き出しに眠らせてしまう前に、まずは店頭でお話を聞かせてください。
皆様の大切な時計とのご来店を、心よりお待ちしております。