Pulsar P4 / パルサー|70年代ヴィンテージ・デジタルウォッチの電池交換とマグネット時刻設定

パルサーP4のバックルに内蔵された設定用マグネットの確認
各種設定に使用する、バックル内蔵の「設定用マグネット」

ウェブ検索から繋がった歴史的名機との出会い

時計の歴史において、1970年代は「クォーツショック」とともに、デジタルウォッチという全く新しいテクノロジーが産声を上げた激動の時代でした。その最先端を走っていたのが、世界初のLEDデジタルウォッチを発表した「パルサー(Pulsar)」。

1970年代のヴィンテージ・デジタルウォッチ、パルサーP4の全体外観
今回電池交換をご依頼いただいた1970年代の名作「パルサーP4」

流線型の近未来的で重厚なステンレスケースは、半世紀近く経った今見ても圧倒的な存在感を放っています。現代の時計にはない、独特のヴィンテージな雰囲気が漂う名機です。

年代物デジタルウォッチに潜むリスクと事前確認

お持ち込みいただいた時点では、LEDディスプレイの表示は完全に消えてしまっている状態でした。

ディスプレイの表示が消えているパルサーP4の正面
完全に表示が消えてしまっているパルサーP4の現状

ヴィンテージのデジタル時計、特に初期の電子回路を搭載したモデルの取り扱いには細心の注意が必要です。長期間電池が放置されていた場合、内部で液漏れが発生して回路を完全に破壊しているケースがあるためです。

また、古い電子部品は経年劣化により非常にデリケートになっており、裏蓋を開ける際のわずかな振動や、古い電池を取り外す際の負荷が引き金となって回路が完全に停止してしまうリスクもゼロではありません。

当店では、作業を開始する前に必ずこうしたリスクについてお客様に丁寧にご説明し、十分にご理解をいただいた上で慎重に作業を進めてまいります。

特殊な構造を持つ裏蓋の開封作業

パルサーP4の裏蓋は、一般的なスクリューバックやはめ込み式とは異なり、非常にユニークな構造をしています。裏蓋自体をワッシャー状の大きなリング構造のネジで上から抑え込むようにして固定されているのです。

専用工具を使用してパルサーP4のワッシャー型ネジ留め裏蓋を開ける様子
専用工具を用い、特殊な構造の裏蓋を慎重に開封

滑らせてケースに傷をつけてしまわないよう、専用のオープナー工具をネジの溝にしっかりと噛み合わせ、トルクを均等にかけながらゆっくりと回して開いていきます。

開封されたパルサーP4の内部、2個の大きな電池が並ぶデジタル回路ムーブメント
裏蓋を開放し、内部のデジタル回路と2個の大型電池を観察

慎重に裏蓋を取り外すと、デジタル回路が姿を現しました。 当時のデジタル時計は現在のものに比べて消費電力が非常に大きかったため、内部には大容量のボタン電池が2個。入念に目視で観察したところ、懸念されていた致命的な液漏れは発生しておらず、保存状態は極めて良好であることが確認できました。

微細なチリの掃き出しと、生命の息吹を吹き込む電池交換

回路に触れる前に、まずは周辺環境の手入れを行います。長年の使用によって裏蓋のネジ山やケースの隙間に溜まった微細なチリや汚れは、そのままにしておくと電池交換の際にムーブメント内部へと滑り込んでしまい、接触不良などの原因になります。

綿棒を使って裏蓋周辺の微細な汚れを掃除する作業と、新しい電池で復活したデジタル表示
チリの侵入を防ぐクリーニングと、電池交換による表示の復活

そこで、新品の綿棒を使用して、汚れをケースの外側へと優しく掃き出すようにして徹底的にクリーニングを行います。

清掃が完了した後、細心の注意を払いながら新しい電池へと入れ替えます。すると、消灯していたLEDディスプレイに鮮やかな赤い数字が浮かび上がりました!電子回路がしっかりと生きており、正常に動作していることが確認できた瞬間です。

パルサーならではの特殊構造:バックルマグネットによる各種設定

ここからがパルサーP4の最も興味深く、かつ技術を要するステップです。この時計には、ケースの表面に時刻を調整するための一般的なリューズ(竜頭)やプッシュボタンが存在しません。

ではどうやって時刻を合わせるのかというと、なんと「磁石(マグネット)」を使用します。

パルサーP4のバックルに内蔵された設定用マグネットの確認
各種設定に使用する、バックル内蔵の「設定用マグネット」

オリジナルベルトのバックル部分を裏返すと、小さな設定用のマグネットが格納されています。この磁石をケース裏面の特定のポイントに近づけることで、内部の磁気スイッチ(リードスイッチ)を反応させ、設定モードを切り替える仕組みになっているのです。

マグネットを使ってパルサーP4の「時間(時)」を合わせる調整作業
根気が求められる「時刻(時・分)」の設定プロセス

まずは、最も時間の掛かる「時刻(時・分)」の設定からスタート。磁石を近づけ、反応を見ながら根気よく現在の時間まで進めていきます。

マグネットでパルサーP4の「秒」をゼロリセットまたは同期する様子
続いて、正確な時を刻むための「秒」の設定

続いて「秒」の同期設定へと移ります。現代のデジタル時計のようにボタンをポチポチと押す感覚とは異なり、磁力の距離感を測りながら調整する独特のコントロールが必要です。

マグネットを近づけてパルサーP4の「日付」を修正する最終調整
最後に「日付」を設定し、ループ確認で動作を確定

最後に「日付(カレンダー)」の設定を行います。 「時・分」「秒」「日付」のすべてが設定できたら、それらが連動して狂いなく正確に表示が切り替わるか、この一連の設定ループを数回繰り返し、動作を完全に確定させます。

すべての正常動作の確認を終え、現時刻にぴったりと合わせて無事に全ての工程を完了いたしました。

おわりに:一連の作業をご報告し、大切な時計をお戻しへ

完了後、これら一連の精密な作業プロセスの流れを、写真と共にお客様へ詳しくご報告。ご自身の愛機がどのような状態で、どのように復活を遂げたのかを知っていただくことも、私たち技術者にとって大切なサービスの一部だと考えております。

大切なヴィンテージウォッチが再び時を刻み始め、お客様にも大変喜んでいただくことができました。

エファーナの時計修理専門サイトにも、今回のようなアンティークウォッチや特殊なデジタル時計、高級メゾンの時計など、様々な修理・電池交換の事例を豊富に掲載しております。眠っている大切な時計をお持ちの方は、ぜひご参考になられてください。