愛用のオメガ。ある雨の日、ふと手元を見ると風防が昙っていました。 「雨が原因でしょうか?時計内部に曇ったような水滴が現れてきてしまってて…」 そんなお悩みで、オメガの腕時計が修理に持ち込まれました。
予期せぬ雨と、診断
お預かりしたオメガを見ると、確かにガラスの内側が曇り、小さな水滴が文字盤の周辺に見受けられます。 この昙りを、単なる湿気ではなく、深刻な浸水の「SOSサイン」と判断しました。 防水時計といえども、パッキンの劣化や、リューズの閉め忘れなど、様々な原因で水は侵入します。 内部に入った水は、ムーブメントの精密な部品を錆びさせ、故障の原因となります。 迅速な対応が求められます。

迅速なメンテナンスの開始
お預かりした時計は、直ちに入水メンテナンスへと回されます。 「まずは水を追い出し、内部を乾燥させ、清掃する。これが最優先です」作業台に時計を置き、道具を選びます。 大切な時計を救うための、時間との戦いが始まります。

内部を汚さないためのプレクリーニング
裏蓋を開ける前に、綿棒を取り出し 裏蓋とケースの隙間に溜まった汚れや埃を、丁寧に掃除し始めます。 「裏蓋を開けた瞬間に、この汚れがムーブメント内部に落ちては元も子もありません。 内部への異物混入を防ぐための、重要な一手です」 細部へのこだわりは、このような事前準備にも表れます。

ケース内部のアルコール処理と曇りの拭き取り
裏蓋が開けられると、職人はケースから文字盤とムーブメントを慎重に取り外しました。 「ムーブメントは自然乾燥に任せます。その間に、ケース内部の処理を行います」 職人はケースのみの状態にして、内部をアルコールで清掃します。 アルコールは揮発性が高く、水分を一緒に飛ばしてくれる効果があります。 「特にガラス面の曇りは、一切残さず綺麗に拭き取る必要があります。 曇りが残っていると、湿気が残っている証拠であり、再発の原因にもなります。慎重に行います」

見えない箇所の汚れ取り
ケースの清掃は、ガラス面だけではありません。 「ケース内縁の、パッキンが当たる部分や、文字盤を固定する溝など、見えない箇所にも汚れは溜まっているものです」 小さな道具を使い、隅々の汚れを掻き出していきます。 「ここに汚れが残っていると、パッキンの密着性が低下し、防水性が完璧ではなくなります。隅々まで綺麗にすることが、防水性の再構築には不可欠です」

完璧な乾燥のチェックとムーブメントの戻し
清掃を終えたケースは、さらに乾燥させます。 「自然乾燥を終えたムーブメントを戻す前に、ケース内部が完璧に乾燥しているか、 埃や曇りが一切ないか、光にかざしてチェックします」 職人はケースを光にかざし、あらゆる角度から入念に確認します。 「このチェックで合格して初めて、ムーブメントをケース内に戻します。ムーブメントに命を吹き込む瞬間です」

防水性の再構築
メンテナンスの後半は、防水性の再構築です。 「古いパッキンは硬化しており、劣化が進んでいました。これが浸水の原因の一つでした」 職人は裏蓋に張り付いている古いパッキンを取り外します。 パッキンは消耗品であり、定期的な交換が必要です。

裏蓋のパッキンの溝にも汚れが溜まっています。 「細かい箇所の汚れ取りには爪楊枝が便利です。新しいグリースを塗る前に、古い汚れを一掃します」 職人は爪楊枝を使い、溝の隅々まで綺麗に清掃します。

新しいパッキンには、シリコングリース処理を施します。 「シリコングリースを均一に塗ることで、パッキンの気密性と滑りを高め、 ケースと裏蓋をしっかりと密着させます。これが水から守る最後の砦です」

再生と確認
メンテナンスを終えたオメガは、裏蓋を閉められ、最後の確認作業へと入ります。 時間を合わせ、針の動きを確認します。 目視に加え、パルスチェッカーという機器でも正常動作を確認します。 現時刻を合わせて、完了です

こうして、浸水の危機から救われたオメガ。また元の美しい姿で、時を刻み始めました。 防水時計でも、過信は禁物です。ガラスの曇りは、時計からの SOS サイン。 もし、曇りを見つけたときは、なるべく早くご相談ください。 あなたの大切な時計を、水から守ります。