TIFFANY / テソロ(TESORO)数十年の眠りから覚めるか…錆との闘い

開封されたティファニーの内部、ムーブメントの縁に広がる深刻な錆
衝撃の瞬間。ケースの縁や地板に沿って、茶色い錆が激しく広がっていました。

時計には、持ち主の人生の断片が刻まれています。

今回、当店にご相談いただいたのは、世界的な名門ブランド、ティファニー(Tiffany & Co.)の「テソロ(TESORO)」クロノグラフ。お客様が数十年前、若かりし頃に手に入れ、長年愛用されていた一品です。

数十年前のティファニー「テソロ」クロノグラフの全体外観
時代を超えた優雅さを纏う、ティファニーのクロノグラフ「テソロ」。
ティファニー・テソロのクロノグラフ文字盤のアップ
繊細な針と3つのサブダイヤル。往年の輝きを今に伝えています。

「もう何十年も止まったまま…。また動くようになりますか?」

差し出された時計は、外装こそ美しさを保っていましたが、その内部には時間の経過が残酷なまでの足跡を残していました。

1. 優雅な外装チェックから見えてくる懸念

ティファニーのテソロは、ブレスレットとケースが一体化したような、滑らかな流線型のフォルムが特徴です。クロノグラフでありながら武骨さを感じさせない、ティファニーらしい気品に満ちています。

文字盤の状態を確認すると、針の腐食や目立つ汚れは見受けられません。しかし、これほど長い期間止まっていた時計の場合、避けて通れないのが「電池の液漏れ」と「パッキンの劣化による湿気の侵入」です。

ティファニー・テソロの裏蓋に刻まれたロゴとモデル名
「TIFFANY & CO. TESORO」の刻印。信頼のスイス製ムーブメントを内蔵しています。

見た目の美しさに安堵しつつも、直感は、内部での深刻な事態を予感させていました。

2. 裏蓋を開けて直面した、厳しい現実

慎重に裏蓋を開けた瞬間、目に飛び込んできたのは…

開封されたティファニーの内部、ムーブメントの縁に広がる深刻な錆
衝撃の瞬間。ケースの縁や地板に沿って、茶色い錆が激しく広がっていました。
ムーブメント細部の隙間に詰まった汚れと錆のクローズアップ
細かな隙間にまで入り込んだ錆の粉末。一筋縄ではいかない作業を予感させます。

ケースの縁からムーブメントの地板にかけて、錆が広範囲に広がり長年の放置により、電池内部のアルカリ液が漏れ出し、それが周囲の金属を腐食させたのでしょう。あるいは、劣化したパッキンの隙間からわずかに侵入した湿気が、密閉されたケース内で長い時間をかけて酸化を進めたのかもしれません。

ムーブメントには「TIFFANY & CO.」の誇り高い刻印が刻まれていますが、その輝きを覆い隠すように、錆の粉末が細かな隙間にまで入り込んでいました。

3. 職人の目で見極める「再生の可能性」

時計修理において、錆は最大の強敵です。もし錆の粉末が精密な歯車や、時間を司る電子回路にまで深く入り込んでいれば、修理不能という判断を下さざるを得ない場合もあります。

私たちはルーペを用い、錆の深さを一箇所ずつ確認していきます。幸いなことに、錆の大部分はケースの縁や地板の表面に留まっているように見えます。

4. 再生への第一歩:電池端子のクリーニングと通電テスト

ここからの作業は、薄氷を踏むような繊細さが求められます。 まずは、腐食の原因となっていた古い電池を慎重に取り除きます。そして、液漏れによって汚れた電池端子を専用の溶剤とツールで丁寧に拭き取っていきます。

新しい電池を入れる前に、まずは「通電」するかどうかが最初の大きな壁です。 もし回路が死んでいれば、ムーブメント自体の交換や大規模なパーツ調達が必要になります。しかし、この時代のティファニー独自のムーブメントは希少であり、オリジナルのパーツを活かすことこそが、この時計の価値を守ることにも繋がります。

古い電池を取り除いた後の電池格納スペースとティファニーの刻印
液漏れした古い電池を除去。接点を清掃し、いよいよ通電テストの準備です。

結び:途中経過ですが、私たちは諦めません

現在、作業はこの初期診断とクリーニングの段階。これから新しい電池を入れ、動作の反応を確かめる、まさに「運命の瞬間」を迎えます。

数十年前にお客様がこの時計を腕に巻いた時の高揚感。それを再び取り戻すために、職人としての誇りをかけて、私たちはこの錆との闘いを続けます。