お気に入りのもの、あるいは毎日の生活にすっかり溶け込んでいるアイテムが、ある日突然動かなくなってしまったら、どなたでも不便を感じてしまうものではないでしょうか。特に「腕時計」は、1日のスケジュールを共にする相棒のような存在。なんだか手元が寂しく、落ち着かない気持ちになってしまうものです。
先日、当店エファーナの過去の時計修理ブログをご覧になったお客様が、「ここなら安心して任せられそうだから」と、大切にされている腕時計をお持ち込みくださいました。今回は、そのお預かりしたお時計の電池交換の全工程を、実際の作業画像と共にご紹介いたします。修理内容をすべてオープンにすることで、これからメンテナンスを考えている皆様にも安心していただければ幸いです。

確かな手技で裏蓋を開封する
お客様からお時計の状態をヒアリングしたのち、お持ちいただいている間に作業へと移っていきます。腕時計の構造や裏蓋のタイプはブランドやモデルによって様々ですが、今回お預かりしたCassyの裏蓋は「ポコタイプ(スナップバック・圧入式)」と呼ばれる構造です。
これは、ケースと裏蓋のわずかな隙間に専用の工具を差し込み、テコの原理を応用してパチッと開けるタイプ。一見シンプルに見えますが、適切な位置に、適切な角度と力加減で工具を入れなければ、ケースや裏蓋に消えない傷をつけてしまうリスクがあります。指先で時計をしっかりと固定し、一瞬の集中力で慎重にヘラを差し込んで開封します。

目視による内部チェックとクリーニング
裏蓋が無事に開いたら、すぐに新しい電池を入れるわけではありません。エファーナが何よりも大切にしているのが、開封直後の「内部の観察」です。まずはムーブメント全体をじっくりと見つめ、何か異変が起きていないかを厳しくチェックします。
特に注意深く確認するのは、「水分の侵入(入水)の痕跡」や「ガラス内側の曇り」、そして「パーツのサビや緑青(ろくしょう)」が出ていないかという点です。もしこれらが見つかった場合、単なる電池切れではなく、内部機械のオーバーホール(分解掃除)やパーツ交換が必要になるケースがあるからです。今回は幸いにもサビや入水の形跡は見られず、良好な状態でした。
状態の確認が済んだら、長年の役目を終えて消耗した古い電池を丁寧に取り除きます。その後、綿棒や専用の清掃ツールを用いて、ケースの縁や電池接点などの汚れを隅々まで落としていきます。特に、新しい電池から流れる電気がスムーズに機械へ伝わるよう、通電部分をピカピカにクリーニングすることには細心の注意を払っています。この一手間が、時計の寿命を延ばし、その後の安定した動作に繋がるのです。

パルスチェッカーによる動作確認
内部のクリーニングが完了したら、いよいよ新しい電池をスロットへと挿入します。電池が正しく収まったら、ここで「パルスチェッカー」と呼ばれる時計専用の測定器が登場します。
クォーツ(電池式)腕時計は、電池のエネルギーによって回路から一定の周期で電気信号(パルス)が発せられ、それによって歯車が回り、針が動く仕組みになっています。パルスチェッカーの上に時計を乗せることで、内部の電子回路が正常に機能し、正しいパルス信号が出力されているかを数値や音、ランプで瞬時に測定することができます。チェッカーの反応は良好で、ギヤの引っかかりもなく、運針(針の動き)も極めてスムーズ。これで機械側が健康に動いていることが証明されました。

パッキンの状態確認とシリコングリース塗布
機械の動作が確認できたら、最後にして非常に重要な「防水対策」を行います。腕時計の裏蓋の内側には、外部からの水分や汗、ホコリが内部に侵入するのを防ぐために、「パッキン」と呼ばれるゴム製の細いリングが装着されています。
このゴムパッキンは、経年劣化によって徐々に乾燥し、硬化してひび割れてしまう性質があります。パッキンが劣化すると、日常生活のわずかな手洗いの水しぶきや汗でも、簡単に内部へ侵入してしまい、高額な修理が必要な故障を引き起こす原因になります。今回のメンテナンスではパッキン自体の弾力はまだ残っていたため、防水性を維持・向上させるために「シリコングリース」を塗布する処置を行います。専用のグリース塗布器の中にパッキンをくぐらせ、全体に均一にシリコン膜を浸透させることで、ゴムの柔軟性を復活させ、気密性をグッと高めることができます。

再び時を刻み始めた相棒をお客様の元へ
すべてのメンテナンス工程を終え、パッキンを元の正しい位置へとセットしたら、裏蓋を閉じます。ここでも最後の目視によるチェックは欠かせません。裏蓋が完全に、隙間なく水平に閉じられているか、ケースとの間に歪みがないかを厳密に確認します。僅かな浮きがあっても防水性は損なわれてしまうため、最後の最後まで気が抜けません。
裏蓋がカチッと完璧に閉まったことを確認したら、リューズを引いて、現在の正確な日本標準時に合わせてしっかりとロックします。ピカピカに磨かれたCassyの文字盤の上で、再び規則正しく力強く時を刻み始めた秒針の姿を確認し、今回の電池交換作業は無事に完了となりました

エファーナが作業内容を「すべてオープン」にする理由
今回のお客様は、事前に当店のウェブサイトやブログに掲載されている「時計修理の具体事例」を細かくご覧になり、「ここなら自分の大切な時計を丁寧に扱ってくれそうだ」と確信を持ってお越しくださいました。そのお言葉をいただけたことは、私たちにとって何よりの喜びです。
一般的に、腕時計の電池交換というと「裏で何が行われているか分からない」「ただ電池を入れ替えるだけ」と思われがちです。しかし、私たちがこうして裏蓋を開けた後の観察、細かな清掃、パルスチェック、そしてパッキンのグリースアップといった一連のプロセスを写真付きでオープンにするのは、お客様の大切な資産であり思い出であるお時計を、どのような思想と技術でお預かりしているかを誠実にお伝えしたいからです。作業内容が見えるからこそ、お客様にも「これなら安心だ」と心から納得していただけるのだと確信しています。
エファーナでは、今回のCassyのようなカジュアル・ファッションウォッチから、高級機械式腕時計、あるいは代々受け継がれてきた形見のお時計まで、あらゆる時計の電池交換や修理・オーバーホールを承っております。「最近使っていないけれど、また動かしたい」「他店で断られてしまった」というお時計がございましたら、ぜひ一度、高松市のエファーナまでお気軽にご相談ください。あなたの素晴らしい相棒が再び時を刻むお手伝いを、心を込めてさせていただきます。