時計は、単に時間を知るための道具ではありません。共に歩んできた時間、大切な思い出、そして人生の節目に寄り添ってきたかけがえのないパートナー。そんな大切な時計のメンテナンスを「任せるよ」と言ってくださる常連様…これほど嬉しく、感謝に堪えないことはありません。本当にいつもありがとうございます。
今回は、そんな大切な常連様からお預かりした、特別な一本の電池交換とメンテナンスの様子をご紹介。お持ち込みいただいたのは、スイスの老舗名門ブランド「ボーム&メルシエ(Baume & Mercier)」の美しいドレスウォッチです。

ご覧の通り、クラシカルな美しさを湛えた気品ある佇まいです。そして、この時計本体の素材は「750、K18金製」で作られています。金製のケースは非常に柔らかく、ほんの少しの油断が取り返しのつかない傷に繋がってしまうため、お取り扱いは極めて慎重に行わなければなりません。
ここからが腕の見せ所。スナップ式の裏蓋を開くために、専用のヘラ(こじ開け)を用います。傷をつけないための絶妙な角度と力加減を見極め、裏蓋の開口部となる「その一点」だけを目指して全神経を集中させ、ゆっくりと開いていきます。

裏蓋が無事に開いたら、まずは何よりも「観察」を行います。内部の機械(ムーブメント)に湿気が入っていないか、漏液はないか、状態を正確に把握します。状態を確認後、役目を終えた古い電池を丁寧に取り除きます。内部にわずかでも埃や汚れが入らないよう、綿棒などを用いて細心の注意を払いながらクリーンアップしていきます。
新しい電池を組み込む際、今回のモデルには「秒針」がありません。秒針があれば動いた瞬間に目視で確認できますが、秒針のない2針モデルは、動いているかどうかが一瞬では判断できません。そこで、職人はルーペで歯車の微細な動きをじっくりと覗き込みながら動作確認を行います。さらに、時計が刻む正確なパルス(電気信号)を測定する「パルスチェッカー」を用いて、電子回路が正常に動作しているかを科学的にもしっかりと確認します。目視と機械のダブルチェックを行うことで、確実な安心をお届けするのです。

正常動作の確認ができたところで、次に行うのが「裏蓋のパッキン」の状態確認です。ゴム製のパッキンは、時計の内部に汗や水分、埃が侵入するのを防ぐ生命線。裏蓋を開いたこの瞬間にしかできないからこそ、この徹底したメンテナンス作業を欠かすことはありません。パッキンが硬化していないか、ひび割れがないかをプロの目で厳しく点検します。

さらに続いて行うのが、裏蓋およびケース側の「溝のお掃除」です。長年腕時計を愛用していると、この微細な溝の部分に皮脂や塵などの汚れが蓄積していきます。この汚れを放置したまま裏蓋を閉めると、パッキンが完全に密着せず、防水性能が著しく低下してしまいます。そのため、専用工具と綿棒を使い、頑固な汚れを綺麗に掃除していきます。

綺麗に掃除が完了したら、パッキンに「シリコングリース処理」を施します。シリコングリースを均一に馴染ませることで、ゴムの劣化を防ぐとともに、裏蓋を閉めた際の気密性を極限まで高めることができます。当店では、ただ電池を換えるだけでなく、この一手間を絶対に惜しみません。

すべてのメンテナンスが完了したら、いよいよ裏蓋を隙間なくきっちりと閉めます。最後に文字盤を表に返し、現在の正確な時刻へと時間を合わせます。外観に美しく磨きがかかり、最高の息を吹き返したボーム&メルシエ。お客様へお渡しする準備がすべて整いました。

「電池が切れたから交換する」というシンプルな作業の中にも、時計を傷つけない技術、内部を清掃する丁寧さ、そして防水性を維持する処理など、プロフェッショナルならではのこだわりが詰まっています。お客様が大切にされている愛機を、次の電池交換のときまで安心してお使いいただけるように――。エファーナはこれからも、お預かりするすべての時計に誠心誠意の技術を注ぎ込みます。
大切な時計の電池交換やメンテナンスは、ぜひ安心してお任せいただける当店へご相談ください。皆様のご来店を、心よりお待ちしております。
このブログ記事を通じて、エファーナ様の技術力と、お客様に寄り添う誠実な姿勢がより多くの方に伝わることを願っております。修正や追加したい表現などがございましたら、どうぞお気軽にお申し付けください。