MOVADO / モバード|お母様から譲り受けた腕時計。見えない汚れを落とす精密メンテナンス

パルスチェッカーの上で正常動作が確認されたモバードの腕時計
秒針がないモデルはルーペでの目視確認に加え、パルスチェッカーでも正常動作を確認。問題なく元気に動いてくれています!

お持ち込みいただいたのは、お母様から譲り受けたという、大切な腕時計。「ずっと止まってしまっていて……。もう一度動かして、自分で大切に使いたい…」と。電池交換とメンテナンスのご相談をいただきました。お母様の思い出が詰まった大切な宝物を、信頼して託してくださる。これほど光栄で、感謝に堪えないことはありません。

お預かりしたのは、スイスのモダンデザインの名門ブランド「モバード(MOVADO)」のドレスウォッチです。

ブレスレットと一体化したモダンなデザインのモバードの腕時計を指先で持つ様子
お母様から譲り受けた大切なモバードの腕時計。止まってしまったため、電池交換とメンテナンスにお持ち込みいただきました。

ご覧の通り、シャープなステンレスの質感と、無駄を削ぎ落としたスタイリッシュな文字盤が一体となっています。腕に着けるとまるで洗練されたブレスレット、あるいは精密な「装置」のようでもある、圧倒的な美しさを持つデザインです。長年大切に保管されていたお母様の愛情が、その綺麗な佇まいから伝わってきます。

この大切な愛機に再び命を吹き込むため、さっそく作業を開始いたします。まずは、時計を裏返して流線型をした独特な本体ケースの構造をくまなく確認します。

四隅に小さな固定ネジがある腕時計モバードの裏蓋のクローズアップ
まずは、この流線型をした時計本体の独特な構造をくまなく確認します。

裏蓋を確認すると、一般的なこじ開けタイプやスクリューバック式ではなく、四角いフチを小さなマイナスネジで固定する「4点ネジ留め構造」。湾曲した流線型のケースに合わさるデリケートな構造のため、ネジ頭を傷つけないよう慎重に工具を選定します。

ネジを外す際は、一箇所ずつ完全に抜いてしまうのではなく、対角線状に少しずつ均等にネジを緩めていきます。そうすることで裏蓋にかかる圧力を均一に逃がし、ケースの歪みを防ぎながら、水平にそっと持ち上げて裏蓋を開いていきます。

4本のネジを外し本体から水平に持ち上げて開いた腕時計の裏蓋と内部のムーブメント
4点ネジ留めの裏蓋は、対角線状に少しずつネジを緩め、水平にゆっくりと持ち上げて開いていきます。

裏蓋を開けると、金色に輝く高精度なクォーツムーブメント(機械)が姿を現しました。ここから電池を交換していくのですが、その前にエファーナが何より大切にしている重要な工程があります。それが、ケースの隙間やフチに溜まった「汚れ取り」です。

綿棒を使用して腕時計のケース内部や隙間の汚れを掃除する時計職人の手元
電池を触る前に、まずはケースの隙間に溜まった汚れ取りから。その後、古い電池を取り除いて動作確認を行います。

長年愛用されてきた時計は、ケースの細かな隙間に微細なチリや皮脂汚れが蓄積しています。裏蓋を開けた状態でそのまま電池を触ると、それらのゴミが精密な機械の内部へと落下し、不具合の原因になってしまうのです。そのため、まずは綿棒を駆使して隙間の汚れを完璧にクリーニングします。その上で、役目を終えた古い電池を優しく取り除きます。

続いて、時計の防水性能を司る「パッキン」のメンテナンスに移ります。

ピンセットで腕時計の裏蓋から四角い形状のゴムパッキンを取り外す点検作業
裏蓋に圧入されている防水用のゴムパッキンを取り外し、硬化や亀裂がないか状態を細かく確認します。

裏蓋のラインに沿って圧入されている四角い防水用のゴムパッキンを、ピンセットを使って傷をつけないよう丁寧に取り外します。ゴムに硬化や亀裂がないかを点検したのち、専用のメンテナンスを行います。

専用の黄色いスポンジの上におかれた腕時計用の防水ゴムパッキン
パッキンに専用のシリコングリース処理を施し、防水性と気密性を高めます。

取り外したパッキンを専用のシリコングリース塗布器(黄色いスポンジ)に挟み、全体に薄く均一にグリースを馴染ませます。このグリース処理を施すことで、ゴムの乾燥や劣化を防ぐだけでなく、裏蓋を閉めた際の気密性と防水性能を時計本来の状態へと蘇らせることができるのです。

そして、パッキンを綺麗にしている間に、もう一つの「見えない箇所」のお掃除を進めます。

綿棒を使って金属製の腕時計の裏蓋周辺を細かくクリーニングする様子
パッキンを取り除いた裏蓋周辺のお掃除。見えない箇所には、意外にも長年の汚れが蓄積しているものです。

パッキンを取り除いた裏蓋のフチや溝周辺を、綿棒を使って拭き上げていきます。普段は裏蓋に隠れて見えない箇所ですが、実は意外にも汚れが潜んでいるものです。ここに汚れが残っていると、パッキンを戻した際に不自然な隙間が生まれ、防水性が著しく低下してしまいます。だからこそ、妥協なく綺麗に拭き上げていきます。

裏蓋周辺が綺麗になったら、グリースアップしたパッキンを正しくはめ込み、新しい電池をセット。しかし、今回のモバードには「秒針」がありません。2針モデルはパッと見ただけでは動いているかどうかの判断が難しいため、確実な動作確認が必要です。

パルスチェッカーの上で正常動作が確認されたモバードの腕時計
秒針がないモデルはルーペでの目視確認に加え、パルスチェッカーでも正常動作を確認。問題なく元気に動いてくれています!

まずはルーペを覗き込み、内部の微細な歯車がしっかりと運針しているかを目視で確認します。さらに、時計が正常にステップを刻んでいるかを電子的に測定する「パルスチェッカー」に載せ、ダブルチェックを行います。機械から発せられる正確な電気信号を検知し、チェッカーのランプが規則正しく点灯。問題なく、元気に力強く動いてくれていることが確認できました!

最後に裏蓋を元の通りに隙間なく閉め、現在の正確な時刻を合わせて、お客様へお渡しする準備がすべて整いました。

単に電池を入れ替えるだけでなく、お母様から受け継がれた思い出の時計が、これから先もお客様の腕元で安心して時を刻み続けられるように――。当店では、見えない細部のお掃除やパッキンのグリース処理まで、一つひとつの工程に誠心誠意の技術を尽くします。

お母様の大切なモバードの腕時計、これからはお客様の元で素敵な時間をたくさん刻んでいってくれますように。この度は大切な時計をエファーナにお任せいただき、本当にありがとうございました!