「お気に入りの時計が止まってしまって……」
そう言ってお客様がお持ち込みくださったのは、エレガントなゴールド文字盤が目を惹くレディース仕様の「オメガ シーマスター 120m」。
日常のあらゆるシーンで役立ってきたであろうこの腕時計。止まった針を前に「また元通り動くかしら」とご不安そうな表情のお客さまに安心していただけるよう、私たちは単なる「電池の入れ替え作業」ではなく、これからも長く安心してお使いいただくための「メンテナンス」として丁寧にお預かりいたします。

裏蓋を開けて広がる「密閉された小さな世界」の点検
腕時計は一見すると丈夫な金属の塊ですが、内部はミリ単位以下の精密パーツで組み上げられた繊細な世界です。ケースに傷をつけないよう指サックを装着し、専用工具を用いて慎重に裏蓋を開口します。
裏蓋を外すと、まず現れるのは薄い金属製の防磁内カバーです。日常の静電気や磁気製品、微小なホコリから心臓部を守る大切なシールドの役割を果たしています。この内カバーをそっと取り除くと、美しい金色に輝くオメガ専用ムーブメント(Cal.1438)がお目見えします。

役目を終えた古い電池を取り外し、ここで職人の目が光ります。電池の端子部分にサビや液漏れの跡はないか、歯車に異物が引っかかっていないか。「ただ電池を替える」のではなく、回路自体の健康状態をしばし観察して見極めることが、第一歩です。

見落としがちな「防水の要」パッキンとケースの清掃
観察を終えたら、次は腕時計の寿命を左右する「パッキン」のチェックに入ります。
裏蓋とケースの隙間に挟み込まれているゴム製のパッキンは、長年の締め付けによって押しつぶされ、ケース内部へ汗や湿気が侵入するのを防いでくれています。ピンセットで状態を確認し、ゴムの弾力性や亀裂の有無を細かく診ていきます。

そして、見落としやすいのがケース側に付着した微細な汚れです。
裏蓋のフチやパッキンが入る溝には、長年の使用で微細なチリや皮脂汚れが固着しています。そのまま新しいパッキンをセットして裏蓋を閉めると、小さなゴミが隙間を作り、そこから湿気が侵入してムーブメントを痛める原因になります。そのため、綿棒を使って細かな箇所まで丁寧に汚れを拭き取ります。

第3章:確かな技術と気配りで「これからも安心」を創る
清掃が完了したら、パッキンにシリコングリース処理を施します。

専用のスポンジ塗布器を使って、パッキン全体に薄く均一にシリコングリースを馴染ませます。これにより、ゴムの乾燥や劣化を防ぎ、裏蓋をねじ込む際のパッキンのねじれや噛み込みを滑らかに防止する役割を果たします。
続いて、取り外していた裏蓋自体も清掃します。
裏蓋の溝に溜まった頑固な汚れも綿棒でキレイに除去し、パッキンが完璧に密着する環境を整えます。見えない部分だからこそ妥協しない作業が、時計の気密性を維持するためには欠かせません。

第4章:二重の動作チェックを経て、再びお客様の腕元へ
すべての清掃・整音・グリースアップ処理を終えたら、新しい電池をセットし、裏蓋をしっかりと元の規定トルクで固定します。
最後に行うのが、目視による針の運針チェックと、専用機器「パルスチェッカー」による電子信号の計測です。

機械に乗せ、回路から正しい周期でパルス信号が出ているかを確認します。「問題なさそう!」という緑の反応を確認できたら、現時刻とカレンダーをぴたりと合わせて全ての作業が完了です。
サファイアガラスを拭き上げ、止まっていた秒針がリズム良く時を刻み始めました。
ご返却の際、元気に動き出したオメガをご覧になったお客様のパッと華やぐ笑顔こそが、私たちの最高の喜びです。思い出の詰まった大切な腕時計。これからも安心してお使いいただけるよう、私たちはいつでも一つひとつの工程に想いを込めてメンテナンスを行っています。
腕時計の止まりや調子が気になる方は、ぜひお気軽にご相談ください。