「普段使いからアウトドアまで活躍してくれる時計ですが、止まってしまって……」
そう言ってお客様がお持ち込みくださったのは、カーキ色の引き通しNATOストラップがスポーティーに映える「カシオ(CASIO)」の200m防水ダイバーズウォッチ。
文字盤に刻まれたカジキのマークと、ねじ込み式リューズ。厳しい環境にも耐えうるタフな構造が魅力の時計ですが、どれほど屈強なケースであっても「電池切れ」と「防水パッキンの劣化」は避けて通れません。
単に電池を入れ替えるだけでなく、ダイバーズウォッチとしての頼もしい気密性と信頼性をこれからも保ち続けるため、職人の手で細部までメンテナンスを行っていきます。

タフな構造を見極める。スクリューバック開口の準備
一般的なファッションウォッチとは異なり、高い水圧に耐える構造を持つこのモデルには、回転させて固定する「スクリューバック(ねじ込み式裏蓋)」が採用されています。
まずは作業の邪魔にならないよう、ケース裏側を通っているナイロンストラップを持ち上げます。

ベルトの下から現れたのは、誇らしげにカジキのマークが刻印された金属製の裏蓋です。

外周に刻まれた爪用の溝に専用工具をセットし、ケースに余計なねじれトルクをかけないよう慎重に力を加えて裏蓋を緩めていきます。
内部構造の分解と「汗・塩分」の徹底落とし
スクリューバックを回して外すと、ムーブメントを隙間なく保持するための「白い樹脂製内蓋(スペーサー)」が現れます。この内蓋を取り外すと、心臓部であるクオーツムーブメントとお目見えです。

役目を終えたボタン電池を取り外し、回路の接点に錆や液漏れがないかをしっかり観察します。
続いて、防水性能の要となるゴムパッキンを取り外します。

ピンセットで太めのOリングパッキンを持ち上げ、硬化や切れ、変形がないかを診ていきます。
そして、ここからが職人の真骨頂である「清掃工程」です。

アウトドアや日常使いで活躍してきた時計のケースネジ山やパッキン溝には、目に見えない皮脂汚れや微小なチリ、汗の塩分が蓄積しています。これが残ったままだと、裏蓋を閉めた際に小さな隙間ができ、防水性が一気に低下してしまいます。綿棒を使い、溝の隅々まで汚れをクリーニングしていきます。
シリコングリース処理と密閉感を創る組み立て
清掃を終えたパッキンには、シリコングリース処理を施します。

専用のスポンジ塗布器を使って、パッキン表面全体へ薄く均一にグリースを馴染ませます。これによりゴムの乾燥を防ぐだけでなく、スクリューバック裏蓋をねじ込む際にパッキンがよじれたり噛み込んだりするのを防ぐことができます。
清掃したケースへ新しい電池をセットし、白い内蓋(スペーサー)を元の位置へ戻します。

この内蓋がムーブメントを上から押さえつけることで、衝撃による位置ズレを防ぎ、内部の密閉感と耐衝撃性をしっかりと高めてくれます。
続いて、取り外していた金属裏蓋自体も清掃します。

裏蓋のフチに固着した汚れも綿棒で拭き取り、パッキンが隙間なく密着する理想的な接合面を作ります。
確かなチェックを経て、再びアクティブな日常へ
すべての準備が整ったら、グリースアップしたパッキンを配置し、専用工具でスクリューバック裏蓋をしっかりと規定トルクで固定します。
仕上げに、目視での針の動きの確認と、専用機器「パルスチェッカー」による電子信号の計測を行います。

機器の上に乗せ、回路から正しい周期でパルス信号が出ているかをチェック。「問題なさそう!」という正常な反応を確認できたら、現時刻とカレンダーをぴったり合わせてメンテナンス完了です。
ガラス面とケースをサッと拭き上げると、力強い黒文字盤と針が再び頼もしく時を刻み始めました。
水や衝撃に強いタフな腕時計だからこそ、定期的なパッキンの状態チェックとグリース処理が長持ちの秘訣です。これからもお客様のアクティブな日常の相棒として、安心して永くお使いいただけますように。
腕時計の電池切れやメンテナンスのご相談は、ぜひお気軽にお寄せください。