お気に入りで大切にしていた腕時計。「気がついたら電池が切れて止まっていたけれど、忙しくてついそのまま引き出しに眠らせてしまっていた……」という経験はありませんか? 「かなり長い間止まったままだったけれど、電池を交換すればまた元気に動いてくれるかしら?」と、少しの不安を抱えながらご相談に来てくださるお客様はとても多くいらっしゃいます。
ただ新しい電池を入れ替えるだけでなく、止まっていた期間に内部で異変が起きていないかを見極め、これから先も安心して使えるように細部までお手入れする。それこそが、当店が誇る「預けて安心」な時計職人のこだわりです。
今回は、そんな長らく止まったまま眠っていた、特別な一本の電池交換事例をご紹介いたします。お持ち込みいただいたのは、アメリカ発祥の名門ブランド「ハミルトン(HAMILTON)」のレディース腕時計です。

ご覧の通り、ゴールドのクラシカルなトノー(樽)型ケースに、中央の美しいギョーシェ彫りが施された文字盤、そして上品なブラウンのレザーベルトが調和した、非常に気品あふれるハミルトンです。6時位置に配置されたスモールセコンド(独立した秒針)がクラシックな魅力を引き立てています。お客様にお話を伺うと、「しばらくの間全く使っていなくて、止まったままの状態がかなり長いの」とのことでした。
長期にわたって不動状態だったクォーツ時計は、内部の古い電池が液漏れを起こして精密な電子回路を傷つけてしまっている危険性があります。そのため、まずは慎重に外観のスペックを確認し、内部の状態を診察するための準備に入ります。

裏蓋にはハミルトンの美しい刻印とスペックが刻まれています。ケースに一切の傷をつけないよう、適切な工具(ヘラ)を選定し、職人が全神経を集中させて裏蓋を開けていきましょう。

裏蓋を開くと、スイス製の高級クォーツムーブメント(機械)が姿を現しました。幸いなことに、心配していた電池の液漏れなどはなく、機械内部は綺麗な状態を保っており一安心です。
ここから、新しい電池を迎えるための丁寧なメンテナンスを始めていきます。まずは役目を終えた古い電池を取り除き、電池が接触する端子部分を綺麗にお掃除します。長年電気が流れていなかった端子は、目に見えない薄い酸化膜が発生して通電を妨げることがあるため、丁寧にクリーンアップして通電を良くしておきます。

作業中、ムーブメント内部へ細かな汚れや埃が絶対に入り込まないよう、細身の綿棒を用いて周囲を優しくお掃除していきます。機械の安全を確保した上で新しい電池をセットし、動作確認を行ったところ、6時位置の秒針がチクタクと元気に力強く動き出しました!
時計の正常な運針が確認できたら、続いて時計の命綱である「防水性能」を維持するための重要なメンテナンスに移ります。

裏蓋側のフチに収まっている、時計の形状に合わせた防水用のゴムパッキンをピンセットで優しく取り外します。ゴムがカチカチに硬化してちぎれそうになっていないか、弾力性がしっかりと残っているかをプロの目で厳しく点検します。パッキンの状態を確認している間に、もう一つの見えない重要箇所のお掃除を進めます。

パッキンを取り除いた裏蓋側の細いパッキン溝を、綿棒を使って入念にお掃除していきます。普段は隠れていて見えない場所ですが、ここには長年のご使用で蓄積した微細なチリや皮脂汚れが潜んでいるものです。ここにわずかでも汚れが残ったまま裏蓋を閉めると、パッキンが完全に密着せず、防水性能が著しく低下してしまいます。

点検の結果、パッキン自体は硬化しておらず非常に良好な状態でした!そのため、専用のシリコングリースを含ませた黄色いメンテナンススポンジに挟み、全体をしっかりとグリースアップします。これによりゴムの潤いが保たれ、乾燥によるひび割れを防ぐとともに、ケースと裏蓋を完璧に密着させて時計本来の気密性を蘇らせることができます。

グリース処理を施したパッキンを元通りにセットし、裏蓋を隙間なくきっちりと閉じます。最後にリューズを回して現在の正しい時刻を合わせ、一連の電池交換がすべて完了いたしました!長い眠りから覚め、息を吹き返した美しいハミルトン。最高の仕上がりでお客様へお渡しする準備が整いました。
エファーナの電池交換は、ただ電池を入れ替えるだけの作業ではありません。お預かりした大切な時計が、これから先もお客様の腕元で安心して時を刻み続けられるように――。見えない細部のお掃除や、パッキンのグリースアップといった一手間を、すべての時計に心を込めて施します。
長年眠ったままになっているハミルトンや、動くかどうか分からない思い出の時計がございましたら、安心をお届けする当店へお気軽にご相談ください。