先日の作業にて、長年止まったまま表示が消えていた「ハミルトン パルサー(HAMILTON Pulsar)」のデジタルLED表示が復活いたしました。
赤いLEDダイアルが鮮やかに時刻を刻む姿を取り戻したことで、お客様からも大変お喜びいただきましたが、長年の眠りから覚めた時計を見てみると、どうしても気になるのが外装の「黒ずみ」や「金属のくすみ」…。

そこで今回は、機能の復活に引き続き、時計本体およびベルト全体の外装磨き・メンテナンス作業をご依頼いただきました。
1. 現状のコンディション確認と分解作業
まずは研磨作業に入る前に、時計全体のメッキの状態や小キズの深さ、汚れの付着度合いを精査します。

ヴィンテージウォッチのゴールドメッキ仕上げは非常にデリケートです。下地を露出させずにどこまで綺麗な光沢を引き出せるか、慎重に見極める必要があります。
状態を確認したら、本体ケース、ステンレスブレード、バックル、バネ棒に至るまで細かくパーツを分解していきます。

パーツごとに孤立させることで、隙間に溜まった汚れを残さず落とし、バフ磨きの圧力を隅々まで均一にかけることが可能になります。
2. 下地処理とシリコンポイントによる細部磨き
分解した金属ベルトやバックルは、まず超音波洗浄機にかけて長年の皮脂汚れや埃を徹底的に洗い流します。
洗浄後、次はハンドリューターにシリコンポイントを装着し、パーツの角や端部、コマの細かな凹凸部分の汚れ取りと微細なキズ消しを行います。

「ゴールドメッキが削れてしまわないか?」「どの程度の圧力なら安全に表面を整えられるか?」を手応えで探りながら、慎重に下地を慣らしていきます。
3. 3種類のバフと研磨剤を駆使した段階的磨き
ここからの磨き工程では、研磨剤の粗さに合わせて3種類のバフを使い分けます。
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研磨剤(ワックス)にはそれぞれ得意な役割と粒度(番手)があります。
- 赤棒(トリポリ)【#300~#600程度】:切削力が強く、粗仕上げや深いキズ取りに使用。
- 白棒(アルミナ)【#1000~#2000程度】:汎用性が高く、面を整えて光沢を出す中仕上げ用。
- 緑棒(酸化クロム)【#2000~#4000程度】:非常に細かい超微粒子。最終的な鏡面出し・ツヤ出し用。
メッキ層の薄いヴィンテージ品において、強い赤棒の多用は厳禁です。メッキの状態を見極めつつ、基本的には白棒で優しく面を整え、緑棒で極上の光沢を引き出すステップを踏んでいきます。

ケースの丸みやパルサー独特の未来的なフォルムを崩さないよう、バフの当てる角度と圧力をミクロン単位でコントロールしながら丁寧に研磨を重ねます。
研磨が完了したら、柔らかく上質なセーム革(鹿革)を使い、手作業で表面の微細な研磨粉や脂分を綺麗に拭き上げていきます。

4. よみがえった光沢と完成
セーム革で拭き上げた後のパーツがこちらです。


ケース本体・ベルトともに、重くどんよりとしていた黒ずみが綺麗に除去され、金属本来のクリアな輝きが見事に蘇りました。
すべてのパーツを慎重に組み直し、最終確認を行います。

完成したハミルトン パルサーです。
かつての重苦しい黒ずみやくすみは跡形もなく消え去り、パルサー誕生当時の品格あふれる上品な「ライトゴールド」の雰囲気が見事によみがえりました。
内部のデジタルユニットも良好に作動しており、外装もクリアに磨き上がったことで、時代を超えた名作ウォッチとしてこれからも安心してお手元でご愛用いただけます。